お父さんと真っ白な世界・・・。
※閲覧注意のお話です。暗い話しが苦手な人は読まないでください。
前回の『海の向こうのずっと先へ。』のつづきになります。
冬になって雪を見ると思い出す光景がある・・・。
どこまでも真っ白な海に雪が降っていて、どこからが海で、どこからが空かわからなかった。
あの時のお父さんが何を考えていたのか、よくわかっていた。
私もおんなじ気持ちだったから・・・。
ずっと二人でそこに立って、眺めつづけていた海。
ひたすら真っ白な世界にアタシたちは圧倒されていた。
『大丈夫か?』
『うん』
それくらいの会話しかしなかったけど、お父さんとのつながりをとても強く感じていた。
私とお父さんがきたその町は、電車と船で乗りついでやっとの思いでついた二人だけの世界。
見渡すかぎり真っ白で、私とお父さんも雪の一部になっていた。
港から歩きながら見ていたその光景が、私の中に強烈にのこっている。
お父さんの大きな手が『もう行こう』と引っ張ってきた。
私は何も言わずにしたがった。
『春や夏なら過ごしやすい地域だけど、冬はこんな状態だからね』
役場(役所)みたいなところで、お父さんが小柄なメガネのおじいちゃんと話していた。
役場はぜんぶ木造で、すごく古そうな感じの小屋だった。
たぶん、十人も集まったらぎゅうぎゅうになっちゃう。
カウンターがあって、カウンターの向こう側におじいちゃんとおばさんがいた。
事務机は四つあったけど、使っているのは二つだけぽかった。
カウンターのこちら側は待合室になっていて、真ん中にストーブがある。
ストーブは電気式ではなくて灯油みたいで、すごい勢いで燃え上がっていた。
灯油の匂いと木の匂いとちょっとほこりの匂いがまざりあったこの小屋が、私は気にいった。
『豪雪地帯・・・』
カウンターのおじいちゃんがお父さんにそう言っていた。
窓の外は相変わらず真っ白で、何が何だかわからない。
ストーブは何かに負けないように、ものすごい勢いで燃え上がっていた。
燃え上がる炎を、アタシはきてからずっと見ていた。
ずっと見ていたら、燃え上がる炎の中に自分がいるような気持ちになった。
外で車が止まる音がして、お父さんが『来たみたいだ』とつぶやいた。
それから、その来た車に乗って、私とお父さんはひたすら走った。
道の両脇は木で囲まれていたけど、真っ白でなんの木かよくわからない。
とにかく、白い木がドンドン後ろに流されていくのを私は助手席でボンヤリと眺めていた。
運転席のお父さんは、これから向かう私とお父さんの道を真剣に探しながら運転していた。
少しして『眠たかったら眠りな』と言われたけど『大丈夫だよ』て、私は返事した。
でも、気づいたら眠っていた。
つづく。