不気味な夢とお父さん・・・。
※閲覧注意のお話です。暗い話が苦手な人は読まないでください。
前回の『殺されたお姉ちゃんと赤いハンドスピナー。』のつづきになります。
楽しいお父さんとの旅行から帰ってきたのは、たしか、昼すぎだった。
アパートのまえに魔女おばさんがいたかどうかは、覚えていない。
覚えているのは、お父さんと手をつないでせまいアパートの階段を二人であがったこととお母さんがすごく怒っていたこと。
なんか、イロイロあって、お父さんはお母さんにホテルに泊まってから帰ることを、連絡していなかったみたいで、そのことを中心にアパートの玄関のところで怒っていた。
あと、いつも通り、アタシに対して意味不明な理由で悪口言ってた記憶がある。
その時、お母さんがすごい大声で『あんたなんて、ホントにいらないんだからね』て怒鳴った。
それきいて、小学生だったアタシはフツーに大泣きした。
なんか、すごい泣いて、玄関のところで泣きくずれて、頭の上でお父さんとお母さんが、なんか、ケンカしていたけれど、そんなのぜんぜん関係なくて、やっぱり泣きつづけた。
『また、電話する。大丈夫だからな?』
お父さんの優しい声が頭に残った。
そのあと、泣き疲れて気持ち悪くなって、そのまま自分の暗い部屋で死んだように眠った。
頭の中は、なぜかお父さんではなくて、チィやボタがあらわれては消えていくを繰りかえしていた。
あの大トビラもなぜか出てきて、私は、中に入っていないはずなのに、サビだらけの階段をみんなと一緒にのぼっていた。
『リリって母子家庭なのにお母さんに捨てられたから、ここにきたんでしょ?』
誰かの声が頭の中をグルグルまわった。
『ちがうし』
私は、叫んでまえを歩いていた二人を、おもいっきり全力で突き飛ばした。
私に突き飛ばされた二人は、折れた手すりをつかんだまま、下に落ちていった。
誰かの叫び声と怒鳴り声がきこえた。
泣き声だったかもしれない。
私の泣き声と誰かの泣き声が暗い共同コウにひびいた。
『逃げよう』
キューの声もした。
グルグルまわる『逃げよう』の声。
すごい不気味な夢だった。
起きてから、私は熱があることに気がついた。
けっきょく、その熱はなかなか下がらなくて、アタシは残りの夏休みを寝こんですごすはめになった。
小学生最後の夏休みだったから、くやしかった記憶がある。
でも、夏休みが終わっても、夏休みみたいなもんだった。
学校はあいかわらず自由だったから、私は、行ったり行かなかったりを繰りかえしていた。
たまに、夜になると、階段のところに座りこんで、自殺したアミちゃんのことを思いだしたりした。
アミちゃんのことを思いだすと、自然と自分も死のうかな?て考えたりもした。
でも、けっきょく死なないで、ダラダラ毎日すごしていた。
冬がちかづいたある夜に、お父さんからの電話があった。
お父さんは、しばらく、すごく遠くに行くことになったと話していた。
それをボンヤリ聞いていたアタシにお父さんが『一緒に行こうな?』て急に言われたから、一気にボンヤリやめて、話にくいついた。
お父さんは『お母さんには、まだ、話さなくていいからな?』て言ってた。
なんか、すごいうれしかった。
ずっと死んでいたアタシは、急に生き返った気持ちになった。
部屋の中もきゅうに明るくなった気がした。
お父さんとの旅行がある冬休みが待ち遠しかった。
すごい楽しみだった記憶がある。
なんか、人生であんなにワクワクしたのってないような気がするし。
だけど、その間の記憶は、ぜんぜんない。
・・・その夜、お父さんが迎えにきた時、私は部屋でなんかしてた。
たぶん、誰かの画集かなんか、見ていた気がする。
お母さんの呼ぶ声がして、玄関に向かったら、玄関にお父さんが立ってた。
黒いコートに黒いカバンに黒っぽいスーツ。
全身真っ黒のお父さんは、外の闇夜に溶けこんでいて、白い顔や手が、より白く見えた。
『リリ、おいで』
すごい優しいその声に向かって私は走りだした。
つづく。