海の向こうのずっと先へ。
※閲覧注意のお話です。暗い話が苦手な人は、読まないでください。
前回の『不気味な夢とお父さん・・・。』のつづきになります。
久しぶりのお父さんは潮の香りと雨の匂いが混ざった不思議な匂いがした。
お父さんの後ろに広がる闇夜は、やっぱり雨が降っていた。
お父さんは雨男だ。
お父さんと出かける時は、とにかく雨が降ることがおおかった。
お父さんにくっついているアタシに、あいかわらずお母さんが意味不明な悪口を言っていたけれど、フツーにムシした。
私の頭の中は、お父さんとの旅行のことでいっぱいだった。
お父さんはなんか、紙とかを受けとると、それをカバンにしまっていた。
私がその様子を見ていたら、手をだしてきた。
『行こう』
て
手で言ってきたから、私も無言のままお父さんの手を握った。
それから二人で、手をつないで狭い階段をゆっくり降りて行った。
お母さんがうしろでなんか言ってたけど、関係ないからふりかえることすらしなかった。
階段は雨と潮の香りとハトおじさんの腐敗臭が混ざった毒々しい臭いがしていたけれど、まったく気にならなかった。
アパートから出た私とお父さんは一本の傘を二人で使って、駅に向かって歩きはじめた。
どんな話をしたのか、もう覚えていないけど、二人で笑いながら歩いた記憶がある。
あと、公園の横を通った時に、歯だけおじさんがいないか見回したりしたけど、公園には誰もいなかった・・・。
お父さんに『旅行に行くのに荷物少ないね?』てきいてみた。
お父さんは、黒っぽい小さなカバンしか持っていなかった。
『もう、向こうに置いてあるんだ』
よく意味がわかんなかった。
どうしてこれから向かう旅行先にすでに荷物があるんだろう?
よくわかんなかったけど、気にせず笑ってた。
施設に一人で向かった時とちがって、お父さんと二人で向かう旅先が楽しすぎた
いつもだったらなんとも思わない街灯ですら、お父さんと一緒の時に見ると、楽しく感じた。
『どこまで行くの?』
『ずっとずっと先』
『ずっとずっと先って、どれくらい先?』
『海の向こうのずっと先』
『海の向こうのずっと先?』
『そうだよ』
そんな感じで私とお父さんは海の向こうのずっと先へと出発した。
つづく。