何をしても許されるアタシの国。
※閲覧注意のお話です。暗い話が苦手な人は読まないでください。
前の記事の
つづきになります。
引っ越してすぐにアタシはその国になれていった。
そして日本の常識とか文化とか、すごいいきおいで忘れていった。
雨の日にコンビニとかにカサさして行って、コンビニのまえにカサを置いておくと、ほぼかならずなくなった。
だから、アタシはカサとかお店の中でもひろげたまま入っていって、そのまま買い物したりした。
店員のおばさんとかが、なんか、言ってもまえに盗まれてムカついていたからムシした。
転校先の小学校には、最初は遅刻しないように頑張って行ってたけど、クラスの半分くらいが遅刻してくるので、真面目に朝とか早起きするのがイヤになって、起きたらなんとなく学校に行く生活にかえた。
学校の先生もいちおう、注意するけど、言わないとまずいから言ってる感じで、とくに本気で言ってる感じじゃなかったし、親に電話とかもしてこなかったから困ることはなかった。
学校の友達とかって、その国の子どもだから、やっぱりフツーじゃなかった。
となりの席の子とかまえの日に万引きしたお菓子とか並べてじまんしてたし、授業中に手に火がついて、あわてて先生に消化されてる子もいた。
火だるまになりそうになった子は、恥ずかしそうに『えへへ』て笑ってたから、つられて先生も私たちも笑ってた。
なんか、何をしても許される場所だった。
だから、私もけっこう自由にやってた。
最初はサンダルとかで学校行ってたけど、たまに裸足のまま学校行ったりした。
海まで歩いて五分くらいのところに学校あったから、アタシみたいにサンダルで行ってる子が他にもいた(裸足は私くらいだったけど・・・)。
起きて着替えるのがめんどくさくて、パジャマみたいな服で学校行って、一時間だけ授業うけて、そのまま裸足で帰って寝なおしたりもしていた。
とくに誰にも何も言われなかった。
たまに、昼頃に学校から早退して帰ると、魔女おばさんがアパートのまえでタバコ吸って座ってた。
『学校楽しい?』
『フツーです』
みたいな会話から、たいがいハトおじさんの悪口になっていく流れだった。
魔女おばさん的に、とにかくハトおじさんがハトにエサあげたりして飼っているのが許せないみたいで『階段がハトのフンだらけで汚い』とか『臭い』とかイロイロ悪口言ってた。
ハトのフンで階段が汚いとか言ってたけど、ハトのフンがあるのはハトおじさんが住んでる階の階段だけで、魔女おばさんや私の家の階にはフンなんてなかった。
だけど、魔女おばさん的にはフンだらけらしかった。
よくハトおじさんは階段とかアパートのまえを掃除していたけど、今思うと、あれは魔女おばさんに言われてやってたのかもしれない。
ハトおじさんは無口で小さいおじさんで、ハトだけが友達みたいな人だったから、ハトおじさんからハトを取りあげるのはかわいそうな気がした。
夏の夜、私がいつものようにお母さんに意味不明な暴力ふるわれて、泣きながら外階段に座りこんでいたら、下から誰かがあがってくるのがわかった。
少しまえに近くのアパートで女の人が誘拐されそうになったってきいていたから、たぶんその時の悪い人だと思った。
その悪い人じゃなくても、そんな時間に上がってくる人なんて、ふだんいないから、すぐにヤバい人だと思った。
だから、私はすぐに家に入ってカギしめてのぞき穴からこっそり見ていた。
魔女おばさんだった。
暗くてよく見えなかったけど、髪型とか服とかで魔女おばさんだとわかった。
真夜中にどうして上に行くのか不思議だった。
階段のフンの確認?とか思ったけど、なんとなく話しかけづらい雰囲気だったから、玄関でジッとしてた。
魔女おばさんが上から戻ってきたら、また外階段に座りこもうと思って、玄関で待っていたけど、ぜんぜん魔女おばさんおりてこなかった。
一度、魔女おばさんが上に行ってからバァン、てドアが閉まる音(?)がして、そこから何も音がしなくなった。
いつ、戻ってくるんだろう?てアタシは玄関に座りこんで待っているうちにねむってしまって、気づいたら朝になってた。
・・・次の日が台風だったのを私は、はっきりと覚えている。
朝から雨がすごくて、学校行く気になれなくてフツーに休んで家にいた。
なんか、夕方から外階段にでて雨のようすを見たりしたんだけど、いつもは気にならないのに、なんか、階段がすごい臭かった。
たまたまどこからか帰ってきたアミちゃんにあったけど、アミちゃんも『臭いね』て言ってた。
夏場だから、階段についたハトのフンが腐ってくさくなったのかな?て考えたりしていた。
台風は、けっこうすごくて三日間くらいどしゃ降りがつづいた。
その間、私は学校休んで家にいたけど、外階段とか臭すぎて歩くだけで、気持ち悪くなった。
上の階みに行ったら、階段のあちこちにウジ虫みたいなのがいっぱい歩いていて『最悪じゃん』て思って急いで逃げた。
きっと魔女おばさんがすごい怒るだろうな、て思っていたから、ぜんぜん魔女おばさんが怒らないのが、逆に不思議だった。
台風が通りすぎた次の日の昼に、私が学校から裸足でフツーに帰ってきたら、アパートのまえにパトカーと救急車が止まってた。
ハトおじさんが死んでたからだった。
なんか、ハトおじさんは、台風がくるまえの日に、玄関のまえで倒れて亡くなってたらしい。
しかも、夏場だったからすごい腐っていたみたいで、ウジ虫とかいっぱいだったってあとからきいた。
私は人が腐ると、ハトのフンのにおいと同じようなにおいなんだとビックリした。
あと、魔女おばさんが上にあがっていったのは、なんだったのだろう?て気になったけど、少ししたらどおでもよくなった。
そのあと、私もイロイロなトラブルにすごい巻きこまれていくことになったから・・・。
つづく。