riri_kawaseの世界。

明日もあなたが幸せでありますように・・・。

私の中のあの人。/思い出。。。

その人は私よりもずっと年上で、その業界ではとても有名な絵師さんだった。


経歴もそうだけど、一番有名にしていたのは私生活。


昼間からとにかく呑みまくっていた。


難病を患い、片方の足がほとんど動かなくなっていて、移動時は補助用の杖を使わなければならなかった。


奥さんがいて、私と同い年の娘さん(高校生)がいた。


だけど、同性の恋人がいた。


メンタルクリニックに通院していて、薬を飲んでいたけれど、とても効果があるとは思えなかった。


迷彩柄のジャケットに金髪。


真っ赤な杖を持って歩くその姿はとにかく目立った。


『素面で絵が描けるわけないだろ!!』


絵を回収にきた担当の方にそういって怒鳴っていた。


気難しいうえに、非常識。


自分で自分を追い詰めているようにしかみえなかった。


でも、私は嫌いではなかった。


その人が描く世界がとにかく好きだった。


こんなメチャクチャな人だったのに、常に仕事がきれることなく溢れていたのは、やっぱりまわりもわかっていたんだと思う。


あの人が本物だと。


私はその人が北海道出身で若い頃から絵を描いてきたことしか知らない。


どこの大学を卒業して、どこで学んできたのか、まったく聞かなかったし、興味もなかった。


過去の経歴なんて関係なくて、その日生まれる絵に私は毎日夢中だった。


一年くらい、家出先から通いながら、その人の応援にまわった。


その人が紙に描いた絵をスキャンして毎日Photoshopで加工した。


『箱の中(PC)の仕事はリリ(私の名前)に任せる』と言われて嬉しかった。


八月に事務所の先輩の誕生会がその人の知り合いの居酒屋であった。


もちろん、私も参加して大人のジュースをたくさん呑んだ。


あっという間に時間が経って、終電もなくなって、気づいたら私とその人の二人だけになっていた。


私たちは真夜中なのに大声で歌いながら、事務所までくっつきながら歩いていた。


『事務所にある仮眠室のベッドで一緒に寝ようね?』て私は言っていた。


うん。誘ってた。。。


大人のジュースの影響で何でもよくなっていた。それに、それがその時の私の本心だったのだと思う。


でも


『お前とそんなにことになったらあいつ(私のお父さん)に殺されちまうよ。笑それに何年も前に男じゃなくなったんだ。でも、ありがとうな。嬉しかった』


みたいに言われて、断られた。。。


それでもしつこく誘っていた気がするけど、気づいたら私は一人でベッドに眠っていて、その人は事務所のソファーで眠っていた。


どこかでおもいっきり足をぶつけたみたいで、しばらくの間、私の左足首辺りは濃い青紫色になっていたし、昨夜の誕生会のことは断片的にしか思い出せなかった。


なんか、号泣した記憶があった。


気のせいかと思ったけど、昼近くに起きてきたその人が暖かいコーヒーを飲みながら、ずっと泣いていて大変だったとか言ってたから、やっぱり泣いていたんだと思って恥ずかしくなった。


でも、私が誘ったことは一言も言わないでいてくれたから救われた。


そんなに夢中になっていた人と私は大喧嘩した。


お母さんのことでイライラしていた私は、細かな加工の指示に、ものすごい勢いでぶちギレてしまった。


私は短気。


しかも、子どもすぎた。


そのまま荷物持って飛び出してそれっきり。


次にあった時、その人は棺の中で冷たくなっていた。


『買い物から帰って来たら、もう間に合わなかったの。。。』


お通夜で会ったあの人の奥さんはそう言って泣いていた。


自宅で亡くなった。


それしかあの人の死因はわかんなかった。


自殺だと言っている人もいたし、事故だと言っている人もいたし、病死だと言っている人もいた。


いろんな可能性があるのは、それだけあの人がギリギリの人生を送ってきた証拠だった。


葬儀会場の遺影を見て、私はビックリした。


まったく見覚えのないおじさんだったから。


『えっ、あの写真の人があの人?』て私は事務所の先輩に確認したら『リリちゃん、まだ3ヶ月くらいしか経っていないのにもう顔忘れたの?』て逆にビックリされた。


忘れたわけではなかった。


なんか、私の知っているあの人と遺影の人が一緒の人とは、どうしても思えなくて、ものすごい混乱していた。


私が見ていたのは、あの人が描く絵を通したあの人だったからかもしれないと思ったりした。


棺の中のあの人を、私は見なかった。


あの人の脱け殻を見る気にはまったくなれなかった。


だから、途中で帰った。


何かの人に声をかけられたけど、無視して帰った。


それから、半月くらいして、事務所に忘れてたいた道具とか本とかを取りに行った。


3ヶ月前までお祭りみたいに賑やかだったそこは静まりかえっていた。


事務所はあの人の奥さんとお通夜で話しかけた先輩の二人しかいなくて、他の先輩たちは、転職したり田舎に帰ったりしていて、もういなかった。


数日中に荷物をまとめて引き払うと奥さんが言っていた。


それから『欲しい絵があるならあげるよ?』てすごく優しい声で言われた。


仕上げた絵が山積みになった棚を見てみたら、そこはあの人がいっぱいだった。


宇宙があった。


綺麗な夕焼けの砂浜もあった。


夢のつづきみたいな森もあった。


すべてが眩しいくらいに輝いていて、持っている手が勝手にふるえて、ボロボロ泣いてしまった。


泣くつもりなんてなかった。


お通夜ですら泣かなかったのに、どうしてそこで泣くのか自分でも意味不明だった。


『大丈夫?』


奥さんに聞かれて『大丈夫』とこたえた。


棚には私の絵も置かれていた。


あの人の仕上がった専用の棚に一緒になって置かれているのを見て、ますます泣いた。


『そんな認め方ずるいよ?』て言いたくなった。


私がたまに描く絵をけっしてあの人は褒めてくれなかった。


他の先輩よりも私が上手く描いても、注意しかしなかったくせに、自分の認めた作品専用の棚に私の絵を大切にしまってくれていたのがまいった。


『口で言いなよ?』て言いたくなった。


それから目に焼き付けた。


あの人の絵を。


とても私なんかがもらえないと思った。


そのかわり、私はあの人がいつも座っていた机まで行き、あの人の筆を何本かもらった。


奥さんからは『ありがとう』てなんか、よくわかんないけど感謝された。


その『ありがとう』の意味が実は今もわかっていない。


なんの『ありがとう?』


わかんないや。


もう、二年くらい経つ。


あっという間に過ぎていく。


あの人の顔を、私はもう思い出せない。


もしかすると最初から見ていなかったのかもしれない。


だけど、あの人の描いた絵は、一度も忘れたことはない。


ほぼ毎日思い出す。


うん。


あの人の筆を使って描きあげた絵は、あの人の絵そっくりなんだ。


だから、人に褒められるとなんかよけいに嬉しい。


絵をもらわなくて良かったと思っている。


私の中であの人の絵は毎日進化する。


私が誰かに負けたら、あの人の負けみたいで、くやしくなる。


・・・興奮して書いたから、やっぱりまとまらないや。


何度も書き直したのにこのざま。


情けない。


もしかすると、いつか、ちゃんと書き直すかもしれません。


最後まで読んでくださり、ありがとうございましたm(__)m


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(あの人の筆)。


またね^^