わたし、誘拐されました・・・。
それは突然のことだった。わたしがいつものように散歩していると、その人たちがやってきてわたしを誘拐した。
もちろん、抵抗したし叫んだ。でも、無駄だった。わたしが馬鹿だった。静かな夜道が好きなわたしが馬鹿だったのだ。わたしの叫び声はむなしく響くだけで誰にも届かない。
わたしはあっという間に車に連れ込まれて誘拐された。
誘拐犯は夫婦みたいで年老いた女がしきりに「大丈夫だから心配しないでね」と言ったり「大丈夫だから暴れないでね」と言ったりしていた。
何が大丈夫なのかわからなかったし、わたしはパニック状態で暴れた。
でも、抵抗むなしくわたしは犯人たちの家に連れ込まれた。
「大丈夫、痛くなかった?ケガはない?」
女がしきりにきいてきた。
誘拐しておいて何言っているんだ。わたしは頭にきていたから、何も言わずに睨んでいた。
すると勘違いしたみたいで「お腹減っているの?」と言いだした。
お腹はたしかに減っていた。ここ二、三日、わたしはまともな食事をしていなかった。元々わたしは母子家庭だったのだけど、お母さんがもう何日も前から帰ってこなかったのだ。理由はわからない。とくにケンカをしたわけでもなかった。とりあえず、途方にくれていた。
だから、美味しそうなご飯をその犯人のおばさんが持ってきてくれた時は、実はうれしかった。
でも、誘拐犯の出した食事なんて信用できなかった。毒でも入っているかもしれない。でも、本当に美味しそうなご飯だった。
「大丈夫だから、遠慮しないで食べなさい」
結局わたしは空腹に負けて全部食べてしまった。
びっくりするくらい美味しかった。
「気にいってもらえて良かったわ。これからは毎日、美味しいご飯用意するからね?」
幸せすぎて逆に不安になった。
わたしは部屋の中を見渡した。
よく見るとここは子ども部屋みたいだった。ぬいぐるみやオモチャ箱。カーテンにはクマさんの絵が描かれていた。
わたしがベッドの枕元に置かれたヒヨコのぬいぐるみを触っていると「それ、しんちゃんのお気に入りだったの^^」と言われた。
しんちゃん?てわたしがおばさんを見ていると「ここは元々しんちゃんのお部屋なの。だけど、しんちゃんはお空に行っちゃったから、これからはあなたのお部屋。どう、うれしい?」そう言っておばさんはわたしの頭をなでてきた。
なんとも言えない複雑な気持ちになった。
部屋の入り口に視線を向けると、うつむいたおじさんが立っていた。わたしと視線があうと少し微笑んでどこかへ行ってしまった。
悲しみがこの場所には溢れていると思った。
居心地が悪いわけではないし、どこかに行くあてもなかった。
だから、誘拐されたことは悲しかったけれど、この人たちともう少し一緒にいてあげようと思った。
「おい、これなんか喜ぶんじゃないか?」
いつの間にか戻ってきたおじさんが手に持っていたのは、いかにもおもしろそうなゼンマイ式の車のオモチャだった。
おじさんが床にそれを置いた瞬間、わたしはものすごいスピードでそれを追いかけはじめた。
ニャアニャアいいながら、尻尾を振って・・・。
了。
まぎらわしいタイトルを書いていしまいすみませんでしたm(__)m。
それから最後まで私の小説を読んでくださり、ありがとうございましたm(__)m。
またね^^